2009年度 理事長所信


社団法人熊本青年会議所
第55代理事長
古橋 徹

格差社会の到来とルサンチマン
2001年小泉政権誕生以来、「改革なくして成長なし」のスローガンに日本国民は熱狂し、弱肉強食の新自由主義的政策が次々に実施されました。結果として、「稼ぐが勝ち」という言葉に象徴される拝金主義が蔓延し、ニート・フリーターや仕事をしても生活が改善しないというワーキングプアが大量発生しました。格差社会の到来です。

この世に格差は昔から存在しています。問題なのは、その格差が拡大の傾向にあり、かつ将来にわたって固定化していく可能性が見られるとき、嫉妬や羨望を背景にした怨恨の感情が滞積することなのです。

こうした社会の閉塞感を原因とする怨恨の滞積をルサンチマンと呼びます。連続通り魔事件もそうしたルサンチマンを反映しているのかもしれません。若者が将来に明るい夢や希望を抱きにくくなっているのです。

学力低下とゆとり教育
大学生が分数の計算もできなくなっているといいます。子どもの学力低下が大きな問題となっています。そしてその原因はゆとり教育にあると主張する評論家がいます。しかしながら、その低下の原因がゆとり教育にあるという決定的な根拠は残念ながらありません。なぜなら学力低下は、ゆとり教育が始まる前に始まっているからです。

めまぐるしく変化する現代において、学校で学んだことだけで勉強は十分、ということは少なくなっています。社会に出てからも継続的に知識を吸収していく必要が生じています。したがって大事なのは、どれだけ多くのものを学校で記憶するか、ということより、自ら情報を取捨選択し、新しい知識を継続的にどれだけ吸収する方法を体得するか、また未知の局面に遭遇したり、困難に直面したりしてもいかに生き抜いていくか、物事をやり遂げるか、ということです。そしてゆとり教育が狙っていたものは、子どもに思い切って自由に選択の幅を与えてこうした能力を身につけることであったはずです。

しかしながら、こうしたゆとり教育が狙っていた本来の目的や方向性を「学力低下」という課題に直面して見失い、近年、再度詰め込み教育への回帰を叫ぶ声が高まっています。「生き抜く力」や「学び続ける力」を育む場を学校に期待することはできなくなりつつあります。そうした場を私たちは提供していきます。

また、私たちの中高生時代といえば、勉強・部活・遊びしかなかった気がします。それはそれでとても充実していましたが、近年浜松を発祥にして各地で産声をあげているユナイテッドチルドレン(UC)という組織があります。これは中高生が真正面から社会と向き合い、自分たちに何ができるのか、自分たちは郷土をどうしたいのか、自分は人生において何を成し遂げたいのか、自問自答しながらまちづくりに参画していこうというものです。

この組織は、若者にとって希望を持てないと思われている未来に希望をもたらすことができるかもしれない、そして日本の未来を変えるかもしれないと私は思っています。積極的に支援していきます。

学ぶ習慣・学ぶ機会
継続的に学ばなければならないのは子どもたちだけではありません。私たちのビジネスを考えてみても、JC運動においても、その環境は激変し続けています。新しい知識を積極的に吸収し、絶えず調査・分析を行っていかなければなりません。人間のもつ知識の質と量は、どのような本をどれだけ読むか、もしくは、どのような人間とどれだけ交流するか、に大きく影響を受けます。

読書によって私たちは、相手にアポを取らなくても、わざわざ遠くまで交通費を使って行かなくても、時空を超えて著者の考えに触れることができます。読書は習慣であり、トレーニングにより効率が向上します。いったん身につけた習慣は一生の財産となるはずです。メンバーの読書習慣の定着を図ります。

人間と直接会って話を聞くことのメリットは、読書よりも強い刺激を受けることができるということです。映像・音声を同時にキャッチできるだけでなく、生の迫力を感じることもできますし、双方向のコミュニケーションさえ可能です。こうした機会を数多く得られるのも、JCに在籍するメリットであるはずです。JCに入会すると業績が伸びる、そうした評価を受けられるくらい質の高いものを目指します。メンバー限定のビジネススクールの創設です。カリキュラムの作成・講師の選定などにおいてJCのネットワークを生かして、JCならではの質の高いビジネス研修というものを追求します。

メディアリテラシーと政策
リテラシーという言葉があります。活用する能力という意味です。つまり情報リテラシーといえば、大量の情報のなかから自らに有用な情報だけを取捨選択して活用する能力のことですし、メディアリテラシーといえば、マスメディアの情報を鵜呑みにせず、扇動されずに真実を見極める能力のことです。

政策の決定には世論の動向が大きく影響しています。そしてその世論の形成にはマスメディアの影響力が近年特に強まりつつあり、しかもそのありかたは恣意的で偏ったものになりつつあると私は感じています。私たちは青年経済人としてきちんとしたメディアリテラシーをもつことが重要です。そうしたスキルを磨くためには一種のトレーニングが必要であり、私たち自らがそうした手法を身につけて実践したり、そうした問題意識を醸成したりしていきます。

たとえば、財政悪化が地方財政においても国家財政においても大きな問題となっています。財政を再建するために大切なことは、税収を増やす政策を実行することです。緊縮財政を布けば税収が落ち込むことは避けられません。支出を減らす以上に収入が減るので結果的に財政赤字が増えてしまうことは歴史が証明しています。しかし現状、公共投資はバラマキだ、悪だ、という風潮がはびこっています。そうした世論の存在が経済政策をミスリードしています。

もちろん放漫財政は論外ですが、投資すべきところには投資を行っていくべきです。そして私たち青年経済人がしっかりとした考えをもって、そうした意見を発信していく必要があります。

三位一体改革と地域経済
三位一体改革と呼ばれる改革によって、地方の財政は一気に逼迫してしまいました。国庫支出金、つまり補助金と地方交付税交付金が減少したのに、税源の委譲が遅々として進まないからです。そうしたなかで都市間格差が拡大しつつあります。都市間競争に敗れた都市は破綻の可能性さえあります。またそうした競争は国内にとどまらず、世界各国との国際競争となりつつあります。2011年九州新幹線全線開通を見据えながら、いかに熊本の知名度や魅力を高めていくかが重要です。

また本当の意味での地方分権を実現するためにも、道州制への移行を地方発で進めていかなければなりません。中央集権から脱却し、各地域の事情に見合った特色ある政治運営を実現していく必要があるからです。また、道州制に移行する際に問題となるのが州都をどこにするか、という問題です。歴史上「都」が決まる、という決定的瞬間は何百年に1回のターニングポイントです。「都」になることは計り知れない効果が期待できます。熊本が従来九州行政の中心として機能してきたことを考えると、その第一候補のひとつであることは間違いありません。

そうしたなかで、最も火急の課題は政令指定都市の実現です。熊本県は人口分布や市町村の経済構造をみると、熊本市の繁栄が熊本県全体の繁栄を左右しているといっても過言ではありません。熊本市の知名度を高め、独自の権限、財源を確保するためにも平成22年3月31日の合併特例法失効までに結果を出さなければなりません。私たちはその中心となって運動していきます。

当青年会議所が推進するローカルマニフェスト推進運動の最終的な目標は、熊本市民が「逆マニフェスト」を候補者に対して提示できるようになることだと私は考えています。そのためにはこれまで以上に他団体や市民を巻き込んでいくこと、つまり「展開力」の強化と、マニフェストの肝心の中身を創造していく「提言力」の強化の両面が必要です。この2つの力が強化されてはじめて市民の声を反映した逆マニフェストの提示が可能となり、次の選挙に市民の声を反映することができます。そうした観点で検証の方法を磨き上げ、幸山市長任期3年目の検証を行います。

郷土愛の醸成
地域が自律的発展を目指すとき、郷土愛の醸成は重要な要素です。ロアッソ熊本は2007年J2に昇格を果たしました。私たちがロアッソ熊本を応援するのは郷土愛からです。サッカーに関心のない熊本県民もロアッソ熊本の勝敗には一喜一憂しています。オリンピックで日本選手を応援するのも郷土愛の延長です。

こうした郷土愛をさらに育み、熊本を活性化していこうとする取り組みは非常に尊いし、あらゆる面で副次的な効果を期待できます。市民の活力をいかに引き出すか、盛り上げていくか、はJCにとってメインテーマともいうべきテーマでもあります。ご当地検定というツールもそうした観点から考案されたツールです。利用できるツールはすべて利用していきながら郷土愛を醸成します。

日本の伝統文化と日本の心
日本には、茶道、華道、能、文楽、書道、和歌、邦楽、将棋など多数のすぐれた伝統文化があります。そうした文化に触れることは「日本の心」を学ぶことにつながります。現在「ハチワンダイバー」という将棋マンガがテレビでドラマ化されるほどの大人気連載中です。将棋という日本古来の文化が、インターネットと出会うことによって復活しつつあるのです。さらに近年、将棋は学力向上に役立つということで学校教育にも取り入れられています。将棋という文化は単なる文化を超えて、礼儀作法・勝負勘・忍耐力などを養うことができる貴重な頭脳スポーツです。この貴重な日本文化に着目し再普及に取り組みます。

総合力を発揮する
社団法人熊本青年会議所には数多くのメンバーが在籍しています。ひとりひとりが様々な強みや個性を持っています。そして熊本の活性化に貢献しようという志を持って集っています。その総合力をいかに発揮できるか、が2009年度の運営テーマです。

拡大運動ほど熊本JCの総合力が試される運動はありません。拡大は熊本JCの営業活動です。目標を立て目標を達成するための手段を考え、全員営業体制で実行する。こうした基本的なプロセスのうち、本年は目標を達成するための手段を考える部分に力を入れてみたいと思います。全メンバーを巻き込んでいく仕組みや、また楽しみながら拡大運動に取り組んでいけるような工夫を試みます。

また全国そして全世界のJCメンバーネットワークを活用できるメリットを享受するには「出向」が最も近道です。出向することによって私たちは熊本JCで得られる以上の多様な人脈を得ることができます。安全保障問題・教育問題・憲法問題・少子化問題・道州制問題・経済問題・国際問題などに取り組むことで多くの貴重な経験ができるのもその魅力のひとつでしょう。出向によって大きな刺激を受け学びを得たメンバーが熊本JCでその力を発揮していくことが理想です。私もそうして刺激を得てきたメンバーのひとりです。出向の奨励や出向メンバーの支援にも積極的に取り組みます。

さらに私たちは過去の事業計画書および添付資料などをもっと有効に活用していくべきです。社団法人熊本青年会議所にはこれまで行ってきた膨大な事業の実績が存在し、これからもそれらを蓄積していかなければなりません。大事なのはそれらの実績をいかにアクセスしやすく使いやすいかたちで蓄積するか、です。すなわち熊本JC事業データベースの構築を検討します。

委員会運営においてはサイボウズの導入により、ある面において楽になったとも言えるし、難しくなったと言える面もあります。サイボウズを最大限活用すべき場合と、そうではない場合の区別を行う必要があると感じています。年々新入会するメンバーがいる以上、サイボウズの活用においても利用率を向上させるための努力は常に継続して行う必要がありますし、逆にサイボウズを使わずに生のコミュニケーションを大切にしなければならない場合もあります。今一度委員会運営に必要な基本動作を洗い直し、それらが基本どおりに行われているかの検証を行います。

出席することが基本
私たちはJCを青年経済人の団体である、とよく表現します。本来利己的な存在であるはずの経済人が仕事との両立に悩みながら、まちづくりに取り組むからJC運動は尊いのです。JC運動の基本は出席です。いくら豊かな知識や高いスキルを身につけていても、出席しなければそれを発揮することはできません。また出席しなければ自らの知識やスキルを高めることはできません。出席しなければメンバーの信頼も勝ち取ることはできないし、チームワークも築くことはできません。各種大会も実際に現地に行くことでしかその素晴らしさを実感することはできません。
逆にJCというのは出席するだけで、知識・スキル・経験・信頼・人脈など様々なものを得ることができます。だから出席することが重要なのです。究極のところ、出席するかしないか、出席できる状況を作れるか作れないか、というのは100%個人的な問題です。この問題に関してメンバー同士が助け合うことはできません。が、この個人的な問題を自分自身の努力で克服できたとき、その人間は大きく成長できるのだと私は信じています。
そうして社団法人熊本青年会議所の総合力が本年いかんなく発揮されることを望んでやみません。


スローガン

向上心をもって生きる
昨日よりも向上するために今日何をすべきか


基本理念

自律的に発展できる熊本の創出
~愛する熊本で豊かな人生を送るために~


基本方針

青年経済人として学び続ける習慣の定着
困難に直面しても生き抜ける青少年の育成
熊本の魅力を高める政策実現の推進
郷土と日本文化を愛する心の醸成
常に進化できる組織運営の実現