一般社団法人 熊本青年会議所
2024年度 第70代理事長 野島 雄大
はじめに
私は人の為に生きたい。熊本を明るく希望のある街にしたい。簡単なことではないけれど、同じ志を持った仲間と共に、学び、成長し、前を向いて歩いていく。その覚悟を、その誇りを胸に、ただひたすら、真っ直ぐに突き進む。「君たちはどう生きるか」1937年、今から80年以上前に発刊された児童文学が現代になり再び注目されています。日本では軍国主義が支配的になり始めた危機的な時代状況の中、著者の吉野源三郎は、「次代を担う青少年を悪しき時勢から守らねばならぬ」という思いから人間の知性と個人の誠実、それによって駆動される歴史の進歩への信頼に基礎を置くヒューマニズムの理想を説きました。「人は如何に生きるべきか」という生の根本問題を、世界をどのように認識するのか、社会の仕組みや法則、倫理の観点から捉え、教え、伝えようとする内容は、現代の少年少女のみならず我々、大人にとっても学びとなることが多くあります。「君たちはどう生きるか」この問いは混沌とした現代に生きる全ての人に「刺さる」問いであり、全ての人がその答えを求めているのかもしれません。
「青年会議所はどうあるべきか」それは「人がどう生きるか」の延長線上にあるように思います。私たち青年は理想に燃え、未来への期待を常に持っていなければなりません。希望に満ちた明るい豊かな社会、正義が行われる理想の社会の実現を心から熱望するために、私たちは次代の担い手として大きな責任を自覚し、新しい世界のための推進力にならなければならないのです。同じ理想と使命感を持つ若い世代の人々を広く集め、友情を深めつつ、強く影響し合い、刺激しあって、「若さ」がもつ未来への無限の可能性を自分たちの手で効果的に描き出し、情熱を持って果敢に行動しなければならないのです。
使命
全ての建物が津波によって押し流された街の光景はあまりにも衝撃的で、その場に立ち尽くした私は、自分自身の存在というものを強烈に感じながらも恐怖を覚えていました。「どれだけの人が希望や夢を持ちながら、運命に逆らうことが出来ずにこの世を去ってしまったのか。」「私は何のために生きているのか。これから何のために生きていくべきなのか。」あらゆる感情が沸き起こりましたが、その時はただ目の前の現実を、今ある自分を受け入れるしかありませんでした。しかし、小高い丘に向かう欄干の無い橋を渡る小学生に遭遇したときのことです。二人組の黄色い帽子を被った子供たちが私に向かって「こんにちは。」と大きな声で挨拶をしてくれたのです。どこかで「大変だろうな」とか「可哀想だな」と思っていた私は自分の考えの浅はかさに落胆しながらも、その無垢で純粋な声と表情に感動と希望を感じたことを鮮明に覚えています。東日本大震災から1年、ひとり、現地を訪れた時のことでした。この体験から、命に感謝し、子供たちや社会の為に精一杯貢献をすることが私の使命だと強く意識するようになりました。人は、自分の時間や能力を使って誰かに喜んでもらい、必要としてもらうことで自分の存在を確認し、肯定することで生きる意味を見出そうとしているのだと思います。そうであれば人は相手がいないと自分自身の存在にすら気づかないのかもしれません。だからこそ、周りに感謝し、礼儀をつくし、愛を持って向き合い、生きていく必要があります。
熊本を、日本を、より良くしたい。理想を掲げ、希望を持って生きることのできる社会をここにいる仲間、理念を共にする青年会議所の仲間たちと共に目指し、行動を続けることが我々の使命なのです。
強い組織を目指して
私たちが生きていくために行う、日々の様々な活動に意味があるように、世の中の事象や物事にも理由があります。青年会議所自体が存在する意味や意義は社会の課題をいち早く解決し、社会をより良いものへ変化させることであり、それを可能とする社会で活躍するリーダーを育成することです。青年会議所の存在感や価値が低下すると社会への影響力も弱まります。そうなってしまうと、社会をより良くしようとする運動が社会に届かなくなり、組織としての機能や目的が果たせなくなってしまいます。では、なぜ現在所属しているメンバーは青年会議所に所属し、青年会議所活動を行なっているのでしょうか。会員である以上、それぞれ何かしらの青年会議所への理解や共感による、目的や所属意義を持っているはずです。そうでなければ、それはただの自己満足を求める集団として成り立ってしまいます。これからも明るい豊かな社会を創造し続ける組織であるためには、この組織をさらに強く芯のあるものにしなければなりません。そのために、今一度我々が所属するこの青年会議所の存在する意義を見つめ直し、それぞれがこの組織に所属する意味を再確認することが最も必要なことだと感じています。
所属意識の向上のためにメンバーに対して様々な勉強の機会を増加させます。青年会議所のこと、熊本青年会議所の歴史、会議のルール、議案の作成の仕方やプレゼンのコツなど入会して間もない頃にはわかりにくかったことも、もう一度学ぶ機会を持つことで多くのことを吸収しうる成長の機会となるはずです。個人の成長はもちろん、LOM全体へ個々の成長意欲が波及していくことで組織の一体感を醸成します。
さらに、中長期戦略会議室を本年も設置し、特に熊本青年会議所の未来を担う若手のメンバーを中心に構成します。熊本青年会議所の現状を知り未来に向けてどのようなビジョンを持ち行動するべきかを考えるこの会議は、今後の組織を見据えたメンバーの成長や活動意欲の向上にもつながります。
また、LOMを強化するにはメンバーのLOM愛が必要ではないでしょうか。LOMを愛する心は組織のことを知り、組織の目指すべき理想に向かって運動、活動を行う上で育まれ、伝統や誇り、郷土愛、この地域をより良くしようとする想いが重なり、強くなるものだと思います。そして、その愛は志を同じうする仲間がいることで成り立ち、益々大きくなるはずです。そうであれば、より強い組織の一体感を生もうとした時、理念の共感と共に必要なものは、人と人との繋がり、すなわち、人と人の「輪」です。入会してしばらく経ったメンバーでも顔と名前が一致しないということはないでしょうか。組織を強化するにはメンバー同士がお互いを少しでも理解し、仲間意識を深める必要があると思います。例会や事業のみならず、さらに仲間意識を深めるために委員会を超えた交流の場を創出し、時に先輩方とも熱く熊本の未来を語り合う機会を設けながらLOM愛を深め、強い組織を皆で作り上げていきます。
人が集まる組織
2000年には約55,000人いた全国の青年会議所の会員は2010年には約35,000人、昨年2023年6月時点での会員数は約26,000人となっており会員数の減少が続いています。熊本青年会議所の会員数は2010年代序盤には150人台を推移し、2014年の213人をピークに減少を続け、2021年の106人を底に下げ止まりました。近年では回復を見せてはいるものの、減少傾向の中にあると言えます。組織を存続させるために拡大活動は必要です。しかし、拡大のための拡大となり逆に組織のイメージ低下や価値の低下につながっていないか見つめ直す必要があるように感じます。理想は自然と人が集まる組織です。JCしかない時代からJCもある時代と言われるようになり長い時間が経ちました。多様な組織やコミュニティが生まれたからこそ、JCとしての価値が見直される時代にあると思います。私も様々な集まりに参加し、それぞれの会の特徴を肌で感じたからこそJCの他の組織には無い、大きな成長の機会や利害に関係なく奉仕の精神で世の中に貢献しようとする、その唯一性に気づき、社会においても個人にとっても大きな必要性と絶対的な存在価値を感じているのです。だからこそ、そのことを広く発信し、興味を持ってもらう機会を多く提供することで「入会してもらう」のではなく「入会したい」と思ってもらえる組織を目指します。
多様な価値観を組織に取り入れ、時代に沿った意見を運動に反映していくためには女性はもちろん、様々な属性を持つ人材の拡大も必要です。多様な価値観を理解し合いながらも、共通の目的に向かう組織であることが多様な拡大の前提です。また、組織の質を保ち、社会の中でリーダーシップを発揮し続ける組織であるためには会員の素質や品格も問われます。入会希望者の面接を行い、入会の是非を決める立場として、まずは我々、所属会員一人ひとりが社会でリーダーを名乗る資格があるかを自ら問い、律していかなければなりません。
「誰でもいいから拡大する」のでは無く、「共に活動したい」「「憧れを持って入会したい」「「青年会議所の輪に加わりたい」と思われることが、組織を強くする拡大へつながると信じています
拡大力とは組織力なのかもしれません。強く、価値の高い組織になればなるほど、人は集まって来る。その意識をメンバー全体で共有し、拡大のあり方を考え新しい仲間の増やし方を構築します。
仲間を同志に
せっかく入会したのに、入会後間もない時期に顔を見なくなったり、場合によっては、あまり活動をしないうちに退会をしてしまうメンバーもいます。なぜ、そのようなことが起きてしまうのでしょうか。何をして良いのかわからなかったり、居場所を見つけることができずに、活動に参加しにくくなったのかもしれません。そのような仲間となりうるメンバーの喪失を避けるためには仮入会時や入会初期のサポートが重要です。私たちの組織がどのような組織で何を目指しているかを伝え、しっかりとした入会の意思と入会の目的を持って入会してもらいます。「入ってから考えればいい」「活動しているうちにわかってくる」確かにそのような考えもあるでしょう。しかし、少しでも組織とその目的を理解し、共有することで個人の成長と社会への貢献の機会を出来るだけ早く掴むことができれば、活躍の場面も広がるかもしれません。限りある人生、限りある青年会議所活動です。新しいメンバーに少しでも早く、より良く成長し、同志として仲間の輪に加わってもらい、活躍してもらうことが組織にとっても社会にとっても有益なはずです。「仲間を同士に」との想いを実現すべく、私たちは新しいメンバーに対し、全力で向き合い、全力で支援し、高い活動意欲を持って入会してもらう環境を作り、効果的な仮入会者オリエンテーションを実施します。
認知から共感へ
青年会議所はその時々の社会の課題を解決し、世の中、地域をより良いものにしようと活動を続けてきました。しかしながら、その素晴らしい運動や活動が市民の方々に深く認知されてはいません。素晴らしい活動をしっかりと市民の皆様に届けることは組織の存在意義の向上にもつながり、多くの団体や行政と協力をするためにも必要なことです。また、広く活動が認知されることによってメンバーの家族や社員の理解にもつながり、所属する誇りにもなります。このことは青年会議所がより効果的に事業を展開していくために不可欠であり、会の存在価値が高まることによって自ずとメンバーの拡大にもつながってくることでしょう。しかし、素晴らしい運動や事業を発信するときには注意も必要です。たくさんの情報が溢れる現代では時としてマイナスの事柄が瞬く間に拡散され、積み重ねてきた信頼が一瞬にして崩れ落ちるといった現象が様々なところで起こっています。青年会議所は様々な個性のある人間が集う組織です。個性が輝き、会として成り立つと同時に、それぞれが青年会議所メンバーとしての誇りと意識を常に持って行動し、一人の行動や言動によってその組織全体のイメージや評価を下げることのないよう、一人ひとりの所属意識を向上させることに努めます。そうすることで会の為のみならず、必ずやメンバーの所属することへの誇りの醸成や社会へ貢献しようとする意識の向上へとつながり最大の広報戦略となり得るはずです。
発信の方法は様々ですが、我々にとって最善の発信の方法は何でしょうか。青年会議所という存在や、その活動を知ってもらうための広報も必要であれば、青年会議所という存在を知ったのちにより深く知りたい、または入会したいと思った人への情報提供も必要でしょう。また、メンバーや他LOMのメンバー、シニアの先輩方や他団体など、誰に対しどのような情報を発信していくかを戦略的に考え、今の何十倍も発信していく必要があります。青年会議所の発信ツールを活用することはもちろんのこと、メディアやSNSなどあらゆる手法を検討しつつ、また、各所との関係値を築くことにも重点を置きます。発信するものの中身が魅力的なものでなければいくら相手に届いても意味がありません。興味、関心、共感。情報は、心に訴え、心に響き、相手に伝わります。投げたいボールと取りやすいボールは違うのです。発信する内容についても、単に報告とならないよう青年会議所の魅力やそこに所属する人、メッセージがより効果的に伝わる工夫をすることで、広報の最大効果を目指しながら熊本青年会議所の運動を広く発信し、組織の価値をさらに高めます。
国際感覚を持ったまちづくり
私は学生時代に1年間オーストラリアで生活をしました。語学学校では様々な国の生徒と英語を学び、自分の国のこと、環境や文化についてもよく話をしました。日本のことについて質問されることも多かったのですが、答えに迷うことが多く、私は日本のことを全くと言っていいほど知らなかったことに気づかされました。外を見て内を知る経験から、いかに外に目を向けることで自らの存在や意味に気づくことができるのかを学ぶ経験となりました。熊本についてはどうでしょうか。日本全体から見た熊本。世界から見た熊本。熊本から見た熊本だけでなく、あらゆる視点で熊本を見て、熊本を知り、その良さや課題を今一度整理し、いいところは益々発展させ、課題は解決していかなければなりません。日本という国は島国という特性から独自の精神性が育まれ、それを元に世界でも高い協調性や相手をおもんぱかる精神によって日本独特の発展・成長をしてきました。しかし、ボーダーレス化が進み、世界で人種間の壁がなくなりつつある現状に日本はまだまだ遅れを取っています。これから世界の国々と協力し、時には渡り合う為には国際的な感覚というものを国民単位で持たなければなりません。もちろんこの熊本でも然りです。熊本にも急速にグローバルの波が押し寄せようとしています。
コロナ禍前の2019年3月における訪日外国人旅行者の数は276万人を超えていましたが、コロナ禍の2022年3月には6万人台にまで減少しました。しかし、2023年9月には218万人を超え、急回復しています。コロナ禍の終焉と共にリベンジ消費思考の高まりも重なり、インバウンド需要はこれから益々拡大すると見込まれます。すでに、熊本の中心部や観光地では多くの外国人観光客の姿を見るようになりました。熊本にもたくさんの自然や歴史を背景とした観光資源が存在します。街のシンボルでもある熊本城や清らかな地下水、良質な農水産物も大きな魅力となるはずです。それらを世界に発信し、日本の中でも際立つ存在となるには絶好のタイミングです。行政や様々な団体と協力し熊本の魅力を独自の視点から発信することで、経済効果を生み出し、地域の発展につなげます。戦後のグローバル化の過程で企業は世界中で部材を調達するサプライチェーンを構築しました。この結果、供給網は複雑になり、ひとたび枢要な物資の供給が止まると産業や経済に大きな影響が及ぶようになりました。ハイテク製品の半導体は今や、経済力や軍事力を左右する重要なものです。世界の50強のシェアを誇る台湾の半導体メーカーがフレンドショアリングという発想から日本、熊本に工場を建設しました。進出によって大きな経済効果が見込まれており、歓迎ムードに包まれていますが、背景には台湾有事の懸念や世界情勢が大きく関わっていることも理解をしておく必要があります。また、多くの外国人移住者が熊本に来ることになります。それによってメリットばかりではなく、起こりうる問題も考えなければなりません。文化の違いから生まれる問題、渋滞の問題や地下水に関する懸念など、しっかりと先読みして、できるだけ問題発生前に防止策を講じ、win winの関係を構築し地域の発展につなげなければなりません。
今の時代にこそ、一人の人間として世界的な課題や異文化と向き合い、人類共通の問題解決に参加できる国際感覚を身につけることが必要です。さらに、恒久的世界平和を掲げる組織として世界各国の仲間と人類としての同胞愛を深めることが、私たち青年会議所のメンバーに求められていることなのではないでしょうか。我々青年会議所は世界中に仲間がいます。本年も、海外姉妹JCとの交流を継続し、また、ASPACや世界会議にも出来るだけ多くのメンバーで参加し、世界に向けて熊本青年会議所の存在感を示し、熊本の魅力を発信します。国際の機会を掴み、グローバルな視点での個人や組織の成長を促します。
VUCAワールドを生き抜く
「VUCA「ヴーーカ」」とは「Volatility「ヴ変動性」」「Uncertainty「ヴ不確実性」」「Complexityヴ複雑性」」「Ambiguity 「ヴ多義性」」の頭文字を連結した言葉で、先々の展開を予想するのが難しく、いくら精緻な計画を立てていてもすぐに「想定外」が発生し、全てが台無しになるような混沌とした状況のことをいう言葉です。近年の世界の状況を表す言葉として「VUCAワールド」という言葉が使われ、日本においても「VUCAワールド」にさらされ続けている状況だと言われています。毎年のように日本全国で凶悪な犯罪や世間を揺るがすような事件が発生し、中でも日本のリーダーが凶弾に倒れた事件は記憶に新しく、日本中に衝撃を与えました。また、コロナウイルスの影響やロシアによるウクライナ侵攻の影響で近年にない強烈なインフレに見舞われていながらも、賃金の上昇が追いつかず、市民の生活は益々二極化が進むと言われています。さらに、少子化問題や増税の話題など課題は山積みであり、政治の舵取りによって問題のいく末も大きく変わる状況です。今のままの政治でいいのか。今のままの行政制度でいいのか。目を向けるべき問題は数多いと思いますが、数ある問題をそのままにしてしまい、解決の糸口が見えない状況の根本にある原因は無関心です。このままの世の中で良いのか。このままだと未来はどうなっていくのか。そういった想像を働かせると今何をすべきかが見えてきます。特に次代を担う若い世代に向けて問題を提起し、政治やまちづくりに対して興味と関心を持ってもらうような仕組みを考え、自然に政治への関心が普及する運動を起こすべきです。
熊本青年会議所がこれまで行ってきた公開討論会やマニフェスト検証会。その時々の政治に対して、中立的立場から選択の為に必要な情報提供や政治参画意識の醸成に貢献してきました。これまでの熊本青年会議所の経験を活かし、社会に浸透させるためには「巻き込み」が必要です。青年会議所だけでなく、様々な団体と共に取り組むことで、政治参画意識の拡大と、政治への市民の目としての役割も大きくなるのではないでしょうか。
政治や世界情勢に関わらず「VUCA ワールド」と言われる状況を生み出す原因の一つとして自然災害の多発も挙げられます。近年、世界中で大規模な自然災害が発生し、自然の猛威に普段の生活が脅かされる状況が頻発しています。ここ熊本でも平成28年熊本地震では大きな被害を受け、豪雨や台風、阿蘇山の噴火の影響など毎年のように自然災害が発生しています。災害が発生する度に熊本青年会議所もできる限りの支援を行って参りました。今後も、災害等が発生した際に迅速に対応できるよう、災害支援、復興支援の窓口を設置します。また、様々な地域の課題に目を向け、意見交換を行うことで、より行政や市民の方々との協力関係を深めるために、引き続き熊本市各区や社会福祉協議会との連携を図って参ります。
郷土愛を持ったリーーの育成
現代の子供たちは、少子化や核家族化、地域のコミュニティー意識の衰退や子供同士で遊ぶ機会の減少など子供たちと周りの人々との関わりが減り、互いに影響しあって活動する様々な体験の機会が失われています。また、高度情報化社会やITの発達と共に、子供が一人で遊ぶことのできる環境や装置が溢れ、疑似体験やオンライン上での繋がりは多くなったものの、自分の意志で自由に好きなことをする経験が減り、創造性や判断力、社会性が低下していると言われています。また、郷土愛と地域活力の関係が見直されており、地域の発展のために子供たちの郷土愛を育むことへの重要性が高まっています。私が小さい頃、両親はいろいろなところへ連れ出してくれ、五感を刺激する体験や考えさせ成し遂げさせるといった経験をたくさん与えてくれました。そのように自分で考える機会や何かにチャレンジしようとする経験は、今思うと、情操や思想の構築にとても大きな影響を与えました。「自分で考えなさい。」「自分で決めなさい。」両親は私が小さい頃から、何かを決めないといけない時、そのように言ってくれました。もちろんアドバイスやヒントはくれるものの「こうしなさい。」と言わなかったのは人生とは選択と判断の繰り返しであり、何が起ころうともその責任は自分自身にあるということを、伝えてくれようとしていたのだと大人になりわかりました。自分で考え自分で判断することの重要性はいつの時代も不変であり、将来迎える社会的自立には自主性や自立心が不可欠です。
多様性と協調性という一見相反する言葉の重要性が世の中で叫ばれています。多様な個性を理解し、その個性が輝く社会であるべきだと思います。一方で、社会で生きていくには相手を尊重し敬意を持って接することや思いやりの心で相手に合わせることも必要なことです。個性によって他と軋轢を生むのではなく、それぞれの個性をお互いの思いやりによって繋がれる社会こそが、より良い社会の創造につながることを大人たちが理解し、伝えていく必要があります。
子供たちが健全に成長し社会に貢献しようとする時、その場所が熊本であってほしいと思います。私は熊本市に生まれ、いつも近くに熊本城の存在を感じながら育ちました。2016年、熊本地震で熊本城の石垣が崩れた姿に大きなショックを受けました。熊本城への想いから石垣を修復したいと考え、石工になる勉強に取り組んだほどです。この時に私は熊本城が大好きであることはもちろん、私の、街の誇りであり、アイデンティティの一部なのだと再認識し、そこから郷土愛が生まれ育まれていたのだと確信しました。郷土愛が育まれた背景はそれ以外の様々な影響もあるとは思いますが、その郷土愛があるからこそ、熊本の街を、未来をより良くしたいとの想いが生まれ今の行動へとつながっています。自分の住む街に対し「誇り」「愛着」「共感」を持つことは街の為に自ら関わり、より良くしたいという気持ちを生むのです。子供たちの未来をより良くするためには、今の時代を作る責任世代の私たちが知恵を絞り行動する必要があることは間違いありません。同時に、時が流れ次の時代へと責任と行動が受け継がれる時、熊本をより良くするための資源となるのは子供たち自身なのです。その子供たちが熊本の為を思い、次代のリーダーとなる原動力の一つは「郷土愛」なのだと思います。
現代の子供を取り巻く環境は世の中の発達と共にその課題や問題も日々変化しています。我々がしっかりと今を理解し将来を見据えその課題解決に取り組まなければなりません。実質的な問題のみならず精神性や倫理観など感情に帰する諸問題にも積極的に向き合い、個性の輝くどんな時代でもリーダーとなる人材を育成することが、一つの我々の使命ではないでしょうか。
スポーツの力がつなぐ輪
昨年行われたWBCでは大谷翔平選手をはじめ、日本人選手が躍動し、見事、優勝を飾りました。日本チームの活躍や勝利に多くの国民が感動や勇気をもらい、あらためて、スポーツの力を実感したことは間違いありません。また、今年の夏にはパリ五輪が開催されます。日本はもちろん世界中でスポーツの熱が高まる1年となることでしょう。そんな中、熊本のスポーツ界に新たな風が吹きました。熊本青年会議所はスポーツチームの横連携を強めようと「くまもとスポーツユナイテッドヴ以下KSU」」という組織を立ち上げました。多くのスポーツチームが賛同してくださり、その組織への期待は高まりつつあります。立ち上げたからには責任を持ってしっかりと運営し、自走する組織を目指します。この組織によって、熊本のスポーツチーム同士がさらに関係値を高め、それぞれの発展、さらに地域の発展に寄与していかなければ意味がありません。また、そうすることで、地元チームへの関心や興味が広がり、郷土愛やシビックプライドの醸成にも寄与できるはずです。プロチームに限らず様々な競技やカテゴリーのチームにも横連携組織の輪を広げ、さらにスポーツ界の一体感を創出し、連携を強化します。熊本のスポーツ界にある様々な課題解決に取り組み、KSUのビジョンに向かって活動を行いますが、その中でも直近の課題としてスポーツ施設の老朽化やアクセス、収容人数の問題に目を向け、まずは市民の皆様と共に議論をする機会を作ることが必要だと思います。そもそも、なぜスポーツ施設の更新が必要なのか、場所はどうするのか、財源はどうするのか。議論を恐れずにまずはそのきっかけを横連携組織で話し合うことが組織の意義につながり、益々スポーツの力でまちづくりを進める一助となることが出来るのではないでしょうか。
また、子供たちの純粋な好奇心やチャレンジ精神を感じる事業として熊本県立盲学校生徒招待アイススケート事業があり、この事業を通じて長きにわたり交流を続けてきました。子供たちは普段簡単には行えないことに勇気を持って臨むことで、達成することの喜びや成長を実感することが出来、これからの生活や卒業後に自らの人生を歩む際の意欲や自信を得る機会となります。我々、青年会議所のメンバーも生徒たちと共に過ごし交流することで、挑戦することの大切さや共に手を取り合って困難を乗り越えていくことの重要性を感じ、大きな学びや感動を得ることが出来ます。本年度も子供たちの成長につながる交流を行って参ります。
一体感
どれだけ組織を強くし社会をより良くする運動をしようと思っていても、その想いをメンバーに伝えるためにはメンバー同士が交流する機会がないと成し得ません。交流の機会を作り、組織としてのメッセージを届けるために少なくとも委員会と例会に出席してもらう必要があります。これらの機会はメンバーとしての権利でもありますが、義務でもあります。この熊本青年会議所に所属しているからには委員会と例会に出席しなければなりません。委員会では与えられた職務分掌をしっかりと調査し、企画、実行しなければなりません。メンバーの意見が最も反映されやすい委員会活動で各々が責任感を持って参加し、組織の運動を実際に形にすることへの誇りと自覚を持って委員会運営を行なってもらいます。
例会にも出席義務はありますが、毎年、時期や内容によって出席率にバラつきがあることも事実です。例会はLOMでの最大の情報発信の場であり会員相互の交流の最大の機会でもあります。メンバーとしての責任から出席してもらうことが望ましいのですが、行ってみたい、行きたいと思わせる例会を構築することも必要です。メンバーの成長や組織の一体感向上、青年会議所の運動の発信の場として新しい形の例会にもチャレンジします。
例会の持つ必要性や重要性、また、年間で行われるそれぞれの例会の意味を理解することで、計画する側も参画する側も共に例会を作り上げる意識や積極的に関わる姿勢へとつながります。その意識と姿勢によって例会の価値がより高まり、組織の力へと変化するのです。
出向がもたらすもの
青年会議所ならではと言える制度に出向があります。熊本青年会議所に所属しながら、熊本県、九州、日本、世界というさらに広い地域や世界で活躍するフィールドが準備されています。LOMでの視座だけでなくあらゆる視座の中で課題を見つめ解決しようとする機会は新しい考えや知識を手に入れることはもちろん、自分の住み暮らす地域を見つめ直すきっかけや、地域の課題解決への糸口を見出すことにもつながります。また、出向先では各地のメンバーとの出会いがあり、新しい価値観や考え、JCに取り組む姿勢に触れることで学びや気づきが生まれ、新たな仲間との絆はJC活動へのさらなる意欲の向上やLOMの発信力向上にもつながります。さらに、熊本青年会議所の一員として看板を背負い出向するという責任感もメンバーの成長を促します。出向によって成長したメンバーがLOMに刺激を与え、活力を生み、外部からの新たな発想をしなやかに取り入れる組織となることで組織はさらに強くなります。出向という成長の機会にメンバーが積極的にチャレンジ出来るようその魅力を伝え、出向者が熊本青年会議所の代表としてイキイキと出向先で活動できるように出向先の情報や出向者の活躍をLOMのメンバーと共有し、積極的に支援して参ります。
会議所であるゆえん
青年会議所との名前の通り、我々の組織、運動の根幹は会議です。会議によって議論を交わし、意思を決定、予算を執行し、事業を行い、会を運営しています。この運動の発信の根本である会議の重要性を今一度理解し、会議に責任感を持って臨む姿勢をメンバーに浸透させます。青年経済人が貴重な時間を費やし集まる会議です。会議の場、参加者に敬意を示し、円滑かつ効果的な会議運営を行うために、上程者、受理者それぞれが事前準備とルールの徹底を行い、お互いの責任をしっかりと果たさなければなりません。また、財政面での不備がなく透明性を出来るだけ高めることでメンバーに対しての予算を執行する責任を果たしていきます。さらに、より効率的な会議の為に議案の上程・説明時には出来るだけ事業の背景や目的、内容などが伝わりやすい工夫を検討する必要があります。丁寧かつわかりやすい議案の作成が前提ですが、受け取り側の解釈や理解の差を少しでも無くし、事業の意義や事業への想いを伝えるプロセスを加えることでより深い理解につながり、効果的な会議になるはずです。会議の場は取り上げられる議題や提出されている議案に対し、それらをより良く進めるための積極的な議論をする場です。新しいアイディアや多角的な視点を持った意見が交換され、気づきがあり、意欲の高まる、「参加意義の高い会議の輪」を皆で目指します。
青年会議所内でのそれぞれの会議を通し、メンバーが責任感を持って取り組み、意見の違いにも恐れず討論し、より良い結果を求め続けることがこの会議所に所属し、活動を行うものにとって最大の使命であり、明るい未来を創造するための最良の手段なのです。事務局が担うセクレタリーや事務的な動きも熊本青年会議所にとって不可欠なものです。
周りには見えにくいところで組織を支え、メンバーを輝かせてくれています。また、諸会議の資料の取りまとめや配信、議事録や備忘録・報告書の作成・管理など、会を運営するために必要な様々なことがメンバーの時間と労力によって行われています。多くの支えによって組織や事業・運動が成り立っていることを今一度メンバー全員で理解し、感謝の心とそれぞれの職務に敬意を持ってJC活動に取り組みます。そして、メンバーの活躍や委員会の実績を皆でたたえ感謝を伝える機会を設け、さらなる活動意欲の向上やLOMの一体感を高めます。
70周年を前に
歴史というものは1日ではなり得ません。1日1日、1年1年の積み重ねであり、そこには関わった多くの人の想いが時間をかけ地層のように積み重なっています。私たちがその積み上げていただいた地層の上に立って活動をできていることがどれだけありがたく尊いものであるか、実はその上に立っていると気づきにくいものかもしれません。しかし、歴史を知り過去を振り返ることで、組織として連綿と受け継がれてきた伝統や誇り、想いを知ることは必ずや今の熊本青年会議所にとっても、また、これからも世に必要である組織であり続けるためにも大事なことです。熊本青年会議所は来年70周年を迎えます。これまでの歴史に最大限の敬意を示し、関係者の皆様に感謝を伝え、これからの熊本青年会議所の目指す未来を伝える周年事業の準備に取り組みます。
未来への架け橋であり続ける組織に
使命に燃え、何かを成し遂げたいと思っても結果をすぐに求めることはできません。土台が重要であり、その土台づくりに時間をかけ初めて結果を求めることができます。熊本城の天守閣も通潤橋の水を運ぶ通水管も頑丈な石垣や土台があってこそ成り立っており、それは深い知識や技術、かけられた時間と労力、そしてそれを実行できる強い組織から出来ているのです。青年会議所は単年度制です。だからこそ、この1年で取り組み、目指すものはこれからも続くこの組織と社会にとって必要不可欠なものでなければなりません。未来に向け土台を形成しながらもこれまで築き上げられてきた土台を十分に活用し、単年での最大限の結果を求めます。約3年続いたコロナ禍の影響も無くなった今、世の中は新しい時代が開かれた感覚があります。この新しい時代にあった明るい豊かな社会を創造していくのが青年会議所でありその地域のリーダーたちです。そのリーダーとなる人材を育成し続け、社会の進歩とともに運動をさらに発展させることが、明るい未来への架け橋となるのです。
「君たちはどう生きるのか」その問いに対して答えに導く組織が、運動が、仲間がいるのが青年会議所です。街や子供たちの未来を想い、無償の愛によって世に貢献することで自らがこの世に生きることを、生かされていることを体現できるのが青年会議所なのです。
昨年は九州コンファレンスの開催に向けLOMとして行動することで多くの成長が見られました。行政との連携、個々の成長、発信力の向上、LOMの一体感。そのように成長を見せた熊本青年会議所の輪をさらに大きく、強くするためにメンバーが明るく前向きに所属、活動し、絆と誇りを持った組織となるよう、メンバー全員で歩んで参ります。
熊本を明るく希望のある街にしたい。簡単なことではないけれど、同じ志を持った仲間と共に、学び、成長し、前を向いて歩いていく。その覚悟を、その誇りを胸に、ただひたすら、真っ直ぐに突き進む。
スローガン
強い輪となり未来への架け橋へ 〜熊本の要石となれ〜
基本理念
覚悟と誇りを胸に愛と情熱をもって果敢に行動し
明るく希望の溢れる熊本へ
基本方針
LOM愛を育み地域を牽引するリーダーの育成魅力発信と所属意識の向上による組織の拡大
グローバルシティ創造へ向けた郷土愛の醸成
自ら考え挑戦し希望溢れる次代の創出
意欲と効果を高める組織運営